2013年5月6日月曜日

もものえだ たいぎい 広島弁


 ことばは思わぬ結果を生むことが多い。五歳まで田辺市八幡町で育ち、小学校は白浜、中学、高校を大阪、大学からは広島で生活したわたしは、行く先々でことばというものを強く感じた。

これは最近の話だが、「たいぎいけえ、しんさんな」という近所の老人のことばを、「しんどいから、しなさんな」と文字通りに受け取り、えらい目にあった。

 今や全国の里山に竹林がはびこり、在来の雑木林を死滅させているが、わたしの住居の裏山も例外ではなく、この十年の間にすっかり竹林に変貌した。竹の根は土中の浅い所をはうため、大雨が降ると山は土砂崩れの危険が増す。

だからわたしは竹の拡大を阻止すべく、筍が出るころ山に入っては、二メートルほどに伸びた筍をけっ飛ばしていた。そんなある日、先ほどのことばを聞いたのだ。
「わざわざ山に入って汗をかくと疲れるだけだから、そんなことはおやめなさい」わたしはそう受けとった。

 だが、そうではなかった。
「たいぎい」には、疲れてしんどいという意味のほかに、地元の古老の思わくを刺激して、面倒なことが起こり、もつれた糸がほどけないような深刻なことになる、という意味がこめられていた。
そうなると、散歩するにも道順を変えなければならず、地域の集いにも出られなくなる。それでもやるのか、という意味だった。

 結局、後日それが現実となり、わたしは地元の古老二人に頭をさげてまわった。
同じ山で筍をとっていた古老たちが、数年前から反感をもってわたしを見ていたと知ったからだ。それは「たいぎい」ことが起こる寸前だった。
ことばは思わぬ結果を生むことが多い。五歳まで田辺市八幡町で育ち、小学校は白浜、中学、高校を大阪、大学からは広島で生活したわたしは、行く先々でことばというものを強く感じた。

これは最近の話だが、「たいぎいけえ、しんさんな」という近所の老人のことばを、「しんどいから、しなさんな」と文字通りに受け取り、えらい目にあった。

 今や全国の里山に竹林がはびこり、在来の雑木林を死滅させているが、わたしの住居の裏山も例外ではなく、この十年の間にすっかり竹林に変貌した。竹の根は土中の浅い所をはうため、大雨が降ると山は土砂崩れの危険が増す。

だからわたしは竹の拡大を阻止すべく、筍が出るころ山に入っては、二メートルほどに伸びた筍をけっ飛ばしていた。そんなある日、先ほどのことばを聞いたのだ。
「わざわざ山に入って汗をかくと疲れるだけだから、そんなことはおやめなさい」わたしはそう受けとった。

 だが、そうではなかった。
「たいぎい」には、疲れてしんどいという意味のほかに、地元の古老の思わくを刺激して、面倒なことが起こり、もつれた糸がほどけないような深刻なことになる、という意味がこめられていた。
そうなると、散歩するにも道順を変えなければならず、地域の集いにも出られなくなる。それでもやるのか、という意味だった。

 結局、後日それが現実となり、わたしは地元の古老二人に頭をさげてまわった。
同じ山で筍をとっていた古老たちが、数年前から反感をもってわたしを見ていたと知ったからだ。それは「たいぎい」ことが起こる寸前だった。


『もものえだ 古座田辺白浜と四季』収

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