2013年5月11日土曜日

開発と自然破壊


九州有明海の諫早湾が、国の干拓事業のために長大な潮止め堤防で閉め切られたのは、一九九七年四月のことだった。農地造成と洪水、高潮防止という人為的計画が、万古以来の干潟と生息する生物を消滅させた。わが国ではこのような干拓や、河口堰、ダム建設、河川改修など、国土開発の計画が依然として存在し、国土交通省は開発と安全という名のもと、頑なに自然破壊をくり返している。朝日新聞のコラム「窓 論説委員室から」は「川殺しの世紀」と題して、「二十世紀は、川を殺した世紀だといわれる。ほとんどの国で 巨大ダムが造られ、川は堤防で囲まれた。水害を防ぎ、潅漑、発電、工場、水道に水を利用するためだ。そうした近代的な河川政策は、人びとに物質的な豊かさをもたらした半面、川漁や水運を疲弊させ、魚釣りや川遊びの場をなくした。生態系も破壊された。河川の持つ多様な価値が犠牲になったのだ。それだけではない。近代河川工法は渇水や水害をむしろ深刻にしている。」と、それは一国内にとどまるどころか地球的規模であることを指摘している。
 本書の著者袁清林は、『史記』平準書、『水経注』、宋梅尭臣の詩等の歴史資料を引用しながら、タクラマカン砂漠や内蒙古の砂漠化が進んだのは、「開墾」と「森林破壊」と「戦争」と「水利建設」という全くの人為がその要因であると指摘している。また、長江流域の洞庭湖が年々縮小しているのも、黄河が氾濫をくり返してきたのも、黄河下流の湖沼が消滅したのも、全ては人間のせいであると指摘している。「森林破壊」による「土砂の堆積」、「干拓」と「水利事業」による「水系の変化」、それは人間のせいでなくて何であろう。国家の政策が学問にも強く影響する中国にあって、国策をも、学問をも、そして思想をも、根底から問い直す著者の主張に驚く。そしてその主張は説得力に富む。
(『中国の環境保護とその歴史』研文出版 あとがき)

0 件のコメント: