2013年5月11日土曜日

地上で最も不要なもの



 長江の三峡ダム建設が現実のものとなった。三峡の険しさは、つまりは三峡の美しさということである。自然に人を寄せ付けない険しさがあればそこには美しい自然が残っているということである。

 だが三峡に史上最悪の発明品であるブルドーザーが入ることになった。近代機器は山をわずか三か月で平らにしてしまう。今や地上で最も不要なものは、核兵器ではなくて、ブルドーザーである。

 核兵器には世界中が目を光らせ、使用を抑止する。だが、ブルドーザーの使用を抑止するものは何もない。地上の至る所に運ばれて、木をなぎ倒し、山を削り、川を掘り返している。

 人間が生活に便利なようにと自然破壊を繰り返す時代は、もうとっくに終わったはずなのだ。九十歳になって山を移そうとした北山の愚公のことを、今こそ思い出すべきなのだ。愚公の意味たるや深くて重い。
 (『中国の環境保護とその歴史』研文出版 あとがき)

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