2013年5月11日土曜日

木簡と砂漠


もう一つ、敦煌で発見された新資料と砂漠の情報も飛び込んできた。
 情報の発信源は「中国青年報緑網」http://www.cydgn.org)で、中国の風砂災害は、既に漢代に発生していたというものである。それによると、甘粛省敦煌にある漢代の懸泉置遺跡で発見された木簡に、風砂災害による「遺車失馬」事件とも言うべき内容が記されていたという。木簡の内容は次の通り。某官府が一人の役人を遣わして公務を執行させるために、一台の車と一頭の馬を与えて出張させた所、その男は途中で戻って来た。上部に報告して言うには、敦煌にさしかかった所、突然猛烈な風砂に襲われて、車が強風と砂によって破壊され、馬は驚いて何処にか走り去り、自らも傷を負い、やむなく徒歩で戻ってきた、と。木簡にはこのように記録されていたという。この漢簡を発見した甘粛省文物考古研究所の何双全は論評を発表して、このような風砂による自然災害は『漢書』などの歴史文献にも記載がない、近年風砂気象が国内外を悩ませているが、これはここ数年の間に出現したものではなく、遠く漢代において既に発生していたことが分かった、その原因を今のところまだ明らかにすることは出来ないが、漢簡の記録は今後の気象と地理を研究する上で、またとない貴重な資料となる、と語ったという。砂漠の情報は、「人民日報」海外版二〇〇二年十月十四日第十一版が、中国では砂漠面積が依然として拡大し続けていると伝えていた。それによると、中国の砂漠は全土の二七.八%を占め、一九九四年から一九九九年の五年間だけで五.二万平方㌔㍍増大した、という。これだと毎年一万平方㌔㍍ずつ増えて来た計算になり、なんと岐阜県の大きさの砂漠が、毎年一つずつ誕生していることになるのだから驚く。記事は、国家林業局副局長・祝列克の次のような談話を載せている。「砂漠は、砂漠化を予防することが第一で、その次に現在の砂漠を管理すること大事です。方法としては、砂を封じ込める、牧畜を禁止する、樹木の伐採を禁止する、開墾を禁止する、水利用の無駄を除く、生態系を移動させる、現有林木を保護する、そして何よりも『保護を推し進めながら、一方では依然として破壊が行われている』という現状を根絶しなければなりません。そして同時に大事なのは、農民、牧畜民の利益を守ることで、彼らの生活を保障してこそ、この事業に生命が吹き込まれます。」
 二〇〇二年十月十七日に北京で開かれた全世界環境基金(GEF)の大会で、中国国家環境保護局局長の解振華は「中国は環境大国であり、中国の環境問題が解決すれば、全世界の環境改善に貢献する」と発言したようだ(「中国青年報」十月十七日張可佳記事)。この言葉の中には、現中国の環境問題に対する国家の決意と覚悟が表れている。これは単に、挨拶上の社交辞令ではないように私には思える。中国の環境保護の歴史を見てきた者として、この中国の決意と覚悟を私は信頼し期待する。中国は、風砂、洪水、旱魃という環境悪化の現状を抱えて、その余りの惨状に天を仰ぎながらも、一つ一つを見据えて、ゆっくりと着実に環境問題を解決して行くに違いない。なぜなら、中国には世界のどの国も有していない環境保護の歴史があるからである。私はそれを信じる。
(『中国の環境保護とその歴史』研文出版 あとがき)

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